勝谷誠彦『美しき日本人は死なず』

美しき日本人は死なず

美しき日本人は死なず

少し前から勝谷氏のメルマガを購読していて、著書も気にはなっていた。本屋で何気なく手にとり5ページ目まで読んだところで目頭が熱くなってしまい、本を閉じた。即購入決定です。
週刊誌に連載された記事を厳選してまとめたものらしいが、文字数が少なくてソフトカバーの割りには1400円とお高め設定。もうちょっと文字を詰めて、収録記事を増やして欲しかった。

内容については、前書きにあるように、我々のすぐ隣にいる人々の「義」や「志」の取材記録10編。24時間年中無休の小児科医夫婦。タイで孤児たちの母親となった女性。倒産寸前の父の会社を再建した32才の元DJの女性、などなど。唯一、丹波で小児科を救ったママさん達の話は聞いたことがあったが、他はすべて初見だった。

なんかもう、(前書きでも言及されてるけど)自分探しとか何とか言ってウダウダ言ってる自分が恥ずかしくなり、更には背中を叩かれるような、あるいは奮い立たせられるような話ばかりで、すごかった。人の揚げ足を取ったり欠点を論ったりするような記事ばかりではなく、こういう前向きな気持ちにさせてくれる記事は、今の雑誌文化では大変貴重なのではないだろうか(週刊誌とか読んだこと無いから知らんけど)。小学校の道徳では友達の良いところ探しをしたりするけれど(?)、大人こそが率先してこういうエピソードを子どもに教えてあげて欲しい。

過激な論客のイメージの勝谷氏だが、あまねく(まっとうな)人々の「想い」をとても大切にしている人だと思う。だから、政治的な信条とか歴史観の妥当性とかはさておき、話を聴いても文章を読んでも、決して嫌な気持ちになることはない。本書で顕著なのは、日本にもっと「核アレルギー」になってほしいと願う吉永小百合さんをも取り上げ、丁寧に紹介していることだ。いつも勝谷氏が言っていることからすれば(おそらく)言語道断な意見なのだろうが、平和を願う想いという部分まで掘り下げればきっと全ての「良民常民」の味方たりうるのだ。

小児科夫婦の幼い子どもは、ママと一緒に居たいけれどクリニックに来る子どもの命の方が大事だと言い切る。バーンロムサイのメーは、HIVの孤児たちを家族だと言い切る。メッキのことなど何も知らない小娘は、正に「真摯さ」だけを武器に、社員の信頼を得る。100歳を超えた篤志面接官は50年に渡って少年受刑者に家族を説き、フライング・シーサーの隊員たちは文字通り命を賭して救急救命にあたる。いちいち涙腺がゆるんでしまったが、そんな人々の「想い」を掬い上げることこそが、ノンフィクションの神髄だと感じた。

きっと「名無し」の多くの日本人たちが、そういった想いを抱えて生きているのだろう。そう想像するだけで何かに対して優しくなれる気もする。気のせいでもよいので、ここから何を汲み取るかが大事なんだろうなあ。

まさに、価値はコンテンツに内在するものではなく、物語の受け手が一方的に認めるこだということだ。最後が関係なさすぎるw