村上たかし『星守る犬』

星守る犬

星守る犬

「人間」の定義の一つとして、「嘘を吐くもの」という考え方はできないかと思うことがある。Wikipediaの「嘘」のページの「動物の嘘」の項目によると、霊長類は嘘であると自覚しながら嘘を吐くことがあるらしい。その意味では、むしろ嘘を吐く霊長類を少し広い意味での人間に含めてしまっても構わない。精神構造として、社会構造として、「嘘」が存在し得る生き物こそが「人間」であると考えられないだろうか。
対して、動物や子供というのは無邪気だ。読んで字の如くだが、邪な気が無い。知能や知識が「人間」よりある意味で劣るからこその無邪気さではあるが、だからこそ「人間」は、彼らに心を許し、無邪気に愛することができるのだろう。

この漫画は、そんな無邪気な犬と完全に二人だけの世界を構築できた、せざるを得なかった、或るおとうさんのお話。今際の際に際して、おとうさんの世界はどのようであったか。セカイ系とは一味違う終末感。大好きな感触でした。泣きはしなかったけど。
今までに小動物は様々に飼ったことがあるが、犬は飼ったことがない。この作品は、きっと本当の犬の無邪気さを実感として知る人には、更によく響くのだろう。基本的に原作至上主義者だしアンチメディアミックスではある。しかし、程良い短さと、シンプルだけど静謐な美しさが漂うこのロードムービーは、丁寧に映像化すれば良い作品になる気がする。しかも主演のおとうさん役が西田敏行とは…。ぴったりです。。珍しく映画化に期待。